世の喧噪をよそに、今日もただ黙々と糸を拮る人がいる。
幾代も親から子へ、子から孫へと伝えられてきた精妙な手法がある。
何のてらいもなく、気負いもなく、技を指先に込め、
一粒一粒を丹念に、根気よく拮り上げる手しごとの極み。
時が移り、拮る人が変わっても、
一反のきものを一年もの歳月をかけて創り上げる匠の魂は変わらない。
人の手の丹精を込めた本物は、時空間を越えて永遠に存在し続ける…。
江戸時代の初め、徳川家康が江戸に幕府を開いてまだ間もない頃のことです。尾張の国に、竹田庄九郎というひとりの若者がいました。
仲間と力を合わせて東海道筋に新しい町を拓き、街道を行き交う旅人のために、絞り染めの手拭いを創って売り出したところ、たいそうな人気を博し、一躍街道の名物になりました。
有松絞り四百有余年の歴史は、ここを源とし、今日に至ります。